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妖精のいたずら

妖精のいたずら

つれづれ草・・・第三章・・・


        「葛藤」
(やっと終わった)心地よい疲労感に浸りながらタバコに火をつけ思いっきり紫煙を吐き出した。
 今日は大手企業のイベントプレゼンの日・・・。
零細企業がのし上がるにはいいチャンスだと社長をおだてた甲斐があった。
会議室の窓から外の景色を見るともなしに見ていた。
「やったわね 完璧じゃないの」
その声に振り返るとそこには見知った女の顔が・・・「なんだおまえか」
「あら?わたしでなく誰か待ってたの?」
「いまさら何言ってるんだ 馬鹿」
女の名は(小枝子)別れた女房だった。
「何でお前がここにいるんだよ?」
「何寝ぼけているの? ここは私の勤める会社よ いて当然でしょ?」
「あれ? 道理で聞いたことがあると思っていた。 そうするとこの企画はお前が考えたのか?」
「何言ってるの私はたんなる秘書じゃないの 何ができるというの?」
こんな企画を出すなんて以前のお前なら当たり前のことだって思い出したからさ」
「ふん 私だって変わるのよあなたが変わってしまったようにね。」
苦い思いで小夜子の顔を見つめている。
(片岡小夜子〔今は確か石井小夜子だったか?〕元俺の女房。
依然同じ企画会社に勤めていてそこで俗に言う職場結婚をした。
どこに惚れたかって? すべてさ・・・。
こいつほど使える女はいまだいない。それに器量もいい。ただ、俺を夫としてみていなかった。ただの企画部のライバルと一緒に生活しているとしか考えなかったから破綻は早かった。
子供が生まれてじきに家庭に閉じこもるのが辛くなったのか喧嘩が絶えなくなった。
そのころの俺は、ただ働いていればいい・養ってやればいいとしかんがえなかったから別れるのはあっという間だった。
あれから15年・・・。  こんな形で会うとは思わなかった。
ますますいい女になりやがった。
「そういえば健二はどうしてる?」俺は息子の名前をよんでみた。
「ええ 元気よ・・・。最近あなたに似てきたわ」
「そうか、ならたまには一緒に飯でも食うか?」
「やめたほうがいいわよ、あなたのことすごく憎んでいるから。」
「なんで?俺は別れたといっても仮にも親だぜ!」
「あの子にはあなたのそんな態度が嫌なの! 自分たちの都合で別れたくせに何かといえば『俺は親だ!』っていうその態度がね。」
「今はひとりで生活してる最近は私とも会うのを避けているわ」
「何でお前まで・・・ そうか・・・ すまない」
「ふふふ・・ あなたも変わったわね今までだったら『ふざけるな!』って言ってたくせに。  年をとってきたのかしら?」
「そうかもな」  小夜子の横顔を見つめながらつぶやいてみた。
「「あら、ネクタイが曲がってるわよ」
「うん?」「直してあげるこっちを向いて・・・」
俺のネクタイを直す小夜子の顔を見ながらこんな場面ずいぶん昔にあったような気がして思わず腰に手を回してみた。
「ばか」ネクタイで首を絞められた。   「くるしい」
「立場を考えなさい。 あなたと私はもう他人なのよ。それに私は・・・」
一瞬暗い目をしたが、もう元の小夜子に戻っていた。「はい 終わり」
そう言っておれの胸をこぶしでたたいた。昔と同じ仕草だった。
何事もなかったように振り替えるとそのままドアに向かい始めた。
「あなたの提案通りそうよ。そのときはがんばってね!」振り返りもせず片手を挙げながらドアの向こうに消えていった。
「えっ?何?どうして?」あっけに取られながらそれだけ言うのが精一杯だった。
  後は街の喧騒だけが聞こえるだけだ・・・。








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